幸せの花が咲く町で
香織さんはリビングで、本を読んでいた。
お母さんが眠った後は、彼女は良くこんな風に本を読んでいる。



「香織さん、ちょっと良いかな?」

僕は、店の名前のことを持ちかけた。



「イメージみたいなものはまったくないんですか?」

「そうなんです。
全く浮かばなくて……面倒だから開店日になぞらえて『エイプリルフール』にしようかななんて思ったりもしたんですが、それじゃあ、なんだか馬鹿みたいですよね。」

「馬鹿みたいだとは思いませんが……
そうですねぇ……4月ですから……あ、花言葉なんてありふれてるかしら?」

「花言葉…?
でも、それは花についての言葉でしょう?
日付によって花言葉ってあるんですか?」

「日付っていうより、誕生日の花っていうのがあるんです。
4月1日にももちろんあって、たとえばマーガレット…代表的な花言葉は『誠実』や『真実』です。
それと、桜もそうですね。花言葉は……」

「さくら……」

その言葉は、妙に僕の心を震わせた。
先月の終わりごろから、桜の花が咲き始めた。
それを見ながら、僕の家の庭にも桜がほしいななんて思っていたせいかもしれない。



「桜がどうかしましたか?」

「ねぇ、香織さん……さくらっていう店名はどうでしょう?
儚いってイメージもあるのかもしれないけど、桜を見る時の人の顔って皆笑顔じゃないですか?
僕はね、桜っていうとお花見もですが、それよりも小学校の入学式を思い出すんですよ。
桜の花びらが舞い散る中を、大きなランドセルを背負った子供達が歩いている光景を……
それと同時になんだかうきうきする気持ちも……」

「良いですね!
小太郎ちゃんはもうじき入学ですし、優一さんはお花屋さんの一年生ですし、ぴったりなんじゃないですか?!」

「そっか…!おっしゃる通りですね!
小太郎の入学に、花屋一年生の僕……ありがとう、香織さん……!
あなたに相談して良かった!
あ、明日は仕入れで朝が早いんですよね?
お邪魔してすみません。」

僕は、なっちゃんに決まった店名のことを早く伝えたくて、急いで二階に駆け上がった。
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