エンビィ 【完】
「俺はもう行くが、キミも早く着替えたほうがいい」
伊織は腕時計を確認し、
灰皿で煙草の火を完全に消すと、そこに捨てた。
―――――そして、
「でないと貴重な機会を失う」
「……貴重?」
「ああ。金では絶対に買えないし」
目を疑うほど甘く、
「どんなに請うても与えてはくれない」
「…っ」
「だから―――早くおいで」
―――妖艶に笑った。
熱に浮かされたような頭で、クローゼットから服を選ぶ。この場に黒のドレスがなくて良かった。じゃないとあたしは……伊織が貢いだという、黒のドレスを手に取っていたかもしれない。