エンビィ 【完】
バッグからポーチを取り出して、崩れた化粧を直す。
鏡をみれば、酷い有様だった。
化粧もだが、髪型も最初の面影がない。
これを伊織が見ていたんだと思えば、今更ながらに羞恥心がこみ上げてくる。
「―――玲奈様!」
備え付けの全身鏡で、おかしなところはないかとチェックしていると、息を切らした百瀬が入ってきた。
冬だというのに、額には汗。
「そんなに取り乱して、どうしたっていうの」
ずかずかと大股で近づいてきた百瀬は、あたしの全身を確認し、
最後に心配そうに見つめてきた。
「酔った外人に……絡まれたと聞きました」
……あぁ。
とうの昔に過ぎたことですっかり忘れていた。
伊織と一歩近づけた気がしたあたしは、げんきんになっていた。