真夜中の猫

始まりの夜

ふたりが出会ったのは亮が大学3年で、寛美が看護学校2年の1月だった。
その冬はかなり寒く雪が降ることもまれではなかった。
その夜も吹き付ける風は冷たく、夜空まで透き通るような澄んだ空気と空にはネオンに消されかけた星が小さく輝いていた。
亮は大学の同じ寮の友人のノブとゲームセンターに遊びにきていた。
寛美はバイト仲間の和美が彼氏にふられたからといって、寛美のバイトが終わるのを待って遊びに連れ出された。
時計の針はもうじき0時をまわろうとしていた。
声をかけて来たのは亮の友人のノブだった。
和美は憂さ晴らしのように話をはずませ、寛美の意見も聞かず4人でファミレスに行くことになっていた。
寛美は乗り気ではなかった。
寛美も失恋したばかりだった。
失恋というより恋だったのかも良く分からない不思議な喪失感を抱えていた。
どうせ門限はすぎていたし、行きたくないといえば、和美の怒りに触れそうだったのでおとなしくついて行った。
相手の車には乗りたくなかったので、和美の車で男達とは別々に行くことになった。
ノブの車の助手席には暗くて顔は見えなかったが黙って男が座っていた。
真夜中の街は行き交う車もまばらで、意味のない信号が道の先まで続いていた。
先についたのはノブで、車から降りて店の前で待っていた。
その隣りにいたのが亮だった。
店の前で軽く会釈をした。
立ち話をするには寒すぎたので4人はすぐに店に入った。
ノブと亮は昼間に食べるような量のハンバーグCセットを頼んだ。
さっきまでそういうメニューを運んでいた寛美にはとても受け付けられなかったので、和美と2人でケーキセットを頼んだ。
「まずは、自己紹介~!」
ノブは盛り上げようととにかくしゃべった。
よくいえば人懐こく、ペラペラと出てくる褒め言葉はノブのいいところではあるが、寛美はその軽さが苦手だった。
亮は落ち着いた印象で、こちらの反応をみてノブをたしなめたりしていた。塾の先生のバイトをしているらしく、割としっかりとしたジャケットを着ていたからか大人っぽく見えた。
ノブと和美は気が合わないらしく、冗談交じりにも喧嘩口調になっていった。
寛美は適当に調子を合わせて黙って聞いていたが、本当はバイトの疲れと睡魔に襲われていた。
「バイト疲れた?」
突然亮に話しかけられた。眠そうにしていたのに気付かれたか、退屈にしているのがばれたかと慌てて返した。
「忙しかったから、あはは。」
「明日もバイト?」
「うん。週末は大体でてる。きたことある?」
「ない。」
「きてくれたら飲み物くらいサービスするよ。」
いつもの社交辞令でお店の宣伝をした。

しばらく他愛もない話をして、連絡先を交換する雰囲気にもならず、盛り上がりにかけたまま店を出ることになった。
寛美はほっとした。
やっと帰られる。
ふと亮と目が合った。
また見透かされた気がして、目を逸らした。
「それじゃあ。」
と、声をかけ寛美は和美に送ってもらった。
車の中ではあっちの男がどうとかこうとか和美が話していたが寛美は軽く相槌をうっていた。
いつものように寮の秘密の窓から寮に忍び込み、自分の部屋のベッドに横たわった。
寛美は疲れていた。
目を閉じるとすぐに眠りが訪れた。


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