聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~

「ない………」

早朝の主宮殿、大広間。毎朝の仕事としてここに飾られたあるもののガラスケースを磨きにきた下男が、人知れず声を上げる。

彼が磨こうとしていたガラスケースの中身は、からっぽだった。

「宝剣アヌスが、ないっ!!!」



宝剣アヌスが何者かによって主宮殿から盗まれたという話は、またたくまに王宮中、そして国中へと広まった。

宝剣アヌスとは、カイが陥落する王城から星の石板と共に運び出し、旅の間も常にその身に携え守ってきた剣のことだ。

フローテュリア再興がなってからは、主宮殿に返上していた。

宝剣であるから高価なだけでなく、王家の正統性を示す貴重な宝であるとされていたから、これが盗まれたとあっては、話はリュティアの王位の正統性にまで及ぶ深刻な事態となった。

この出来事を受けて怒り狂ったのは神殿だ。

王権神授説をかたくなに説き続けている神殿である。

宝剣アヌスは神がくださった宝であり、神殿の宝である。それを盗まれるなど監督不行き届きも甚だしい、それはすべて女王の責任であるとして、大司教ポルカをはじめとする神殿は女王を激しく糾弾した。
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