純愛は似合わない
「相変らずストックしてあるんだな」

当の速人は私の視線など気にすることも無く、美味しそうにグラスに口を付ける。

その昔、大好きな探偵物の小説にウォッカを冷凍して飲むシーンがあった。その真似事をして以来、アルコール度数が高い故に凍らず、トロリとした飲み口を密かに楽しんでいた私。

それをちゃっかり、この男が飲んでいるのだ。


スーツの上着を脱ぎ捨てネクタイを緩めた速人は、ソファに深くもたれ掛り、寛いでいるように見えた。


「他人の家の冷蔵庫は開けちゃいけないって、美好さんに教わらなかった?」

「……マスターキーを僕へ手渡すような人間に、そんなこと求めるな」

…………最もだけど、納得したくないわ。

「で? お忙しい社長様が、犯罪行為を犯した理由は何なの」

「理由?」

嫌味に動じる気配など全く無い速人に、溜息が漏れた。

「私と一杯飲みたかった訳じゃないでしょう?」

ちらりと私の顔に視線を走らせ、目蓋を閉じる。

「……理由なんて案外そんなものかも知れないだろ」

「嘘つき。どうせ瀬戸課長が何か言ったんでしょ」

あの人のことだから、また面白可笑しく言ったに違いない。

「瀬戸の奴……。 あいつに、お前を送り届けてくれとは言ったが、一緒に飲めなんて言ってない」

「そんなこと勝手に頼まないで欲しいわ」

「……何で、あいつが居たんだ」

ヒロのことを言ってるらしく、目を開けるとその眼差しが鋭く変化した。
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