純愛は似合わない
「知らないわよ。穂積さんが居ることすら知らなかったのに」

何てこと無いと肩を竦めてみせると、速人は口元を少しだけ緩めた。

「……穂積さんに笑われたよ。早紀を取り逃がしたって」

「あそこで罵り合いでもして欲しかったのなら、期待に沿えなくてごめんなさいね」

私は喉の渇きを癒すべく、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出した。

「早紀は逃げ出すのが上手いからな」

「私はこう見えても平和主義なの」

……誰のせいで、あそこから消えたと思っているのか。

逃げ出したと、指摘されるのは癪に障る。

「で、そろそろ本当の御用件を伺いましょうか?」

速人は眉を上げ、私の方へ体を向けた。

「私は貴方が思っている程、何にでも首を突っ込みたい訳じゃない。でも適当に誤魔化されるのも腹が立つのだけど?」

速人は無言でウォッカを飲み干し、お代わりを要求した。

王様はグラスを掲げれば、お次が勝手にやって来ると思っている。

この話しの流れでその図太さは、生まれながらの御曹司の所為なのか。


私は仕方無く、冷凍庫からフィンランディアの瓶を取り出して彼へ近付いた。

本当は速人の目を意識しながらも素知らぬ顔をして、彼の手に握られたままのグラスの中身を満たす。


「……早紀は、会長と酒を飲みに行って何の話しをするんだ?」

話しの脈絡の無さに首を傾げつつも、速人が真顔で言うものだから私も真面目に答えた。

「取り立てて……。昔話?」






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