純愛は似合わない
ブクブクと顔を付け、湯の中で考えを巡らせていた私には寝耳に水の状況だった。

速人がバスルームの前で腕組みをし、私を見ているのだ。


ちょっと待ってよ。

どうしているの? ……私の部屋に。


「……不法侵入。警察呼ばれても文句言えないわよ、貴方」

「婚約者が勝手に入って来ましたっ、て訴えるつもりか? ただの痴話喧嘩にしかとられやしないさ」

「……どうやって入って来たのよっ」

「お前、うちの母君にマスターキーを預けていただろう? あの人は少女趣味だからな。『早紀と少し喧嘩したから、ちょっとしたサプライズを』って言っただけで、セキュリティの暗証番号まで教えてくれたよ」

それは、十代の頃の話しだ。

初めて一人暮らしをし始めた時。

何かあった時の為に、一番身近な美好さんに預けた覚えはある、が、今まで一度として使用する場面など遭遇しなかった。

私すら所在を忘れていた合鍵を使うなんて。



口元を歪めて笑う速人は、腹黒の悪人にしか見えない。


この人を沈めることが出来る人間なんて、存在するものか。


「喧嘩も何も……。自分の親まで騙すなんて、どうかしてるわ。もう、向うに行って!」

「サプライズになっただろう」等と憎まれ口を叩き、ドアから離れたこの男の神経が知れない。




「私の心臓、止める気? 」

本当に信じられない。

私は早々に風呂を切り上げて、リビングで勝手に私のウォッカを楽しむ速人を睨み付けた。



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