純愛は似合わない
婚約を破棄した後。
明確なプランなんてある筈も無い。
この部屋以外、帰る場所すら無いのだから。
簡単な言葉で括ってしまえるほど、綺麗では無い胸の内を、ずっと独りで抱えていたこの息苦しい想いを、捨ててしまいたい。
ただ、それだけだった。
「あの男がお前の世話を焼いている、と瀬戸が言っていた。……一緒になるつもりなのか?」
低く掠れた声が私の耳を擂り抜ける。
この沈黙を、速人は勝手に解釈したようだ。
ここ数年の中で変わってしまった速人との関係を断ち切るのならば、 首を傾げて速人を見詰めたのは、失敗だったかもしれない。
いつも超然とした速人は鳴りを潜め、陰鬱な面持ちの中に彼の孤独が垣間見えた気がした。
「私は……」
私は同情してるのか。
それは、この男が忌み嫌う感情だ。
でも久々に彼が人間らしく見える。それは間違い無い。
憂いてる速人を身近に感じるなんて、何て悪趣味で厄介なのだろう。
でも、手を伸ばせば触れられる場所に彼が居るのに。
全てがもどかしい。
「お前の気を引きたくて、こんな話しをした訳じゃない」
速人は自嘲的な笑いを口元に浮かべつつ、またもや空になったグラスを持ち上げる。
氷をカランカラン言わせ、暗に次の杯を欲しがった。
早いペースでウォッカを飲み干す速人に、掛ける言葉が見つからない。
私はテーブルの上の瓶を持ち、速人の隣りに腰を下ろした。