純愛は似合わない
ウォッカの瓶の水滴が、私の淡いピンク色のパジャマの腿の辺りを、濃い色に変えていく。

「濡れてる」と速人の唇が動いたものの、私は肩を竦めて聞き流し、彼のグラスを満たす。

「……これ」

速人は、何か思い出すように目を細める。

グラスを握る手と反対の腕を伸ばし、その指先で私のパジャマの袖口をなぞった。

私が着ていたのは、奇しくも速人の家から持ち帰ったパジャマだ。

「私に用意した物みたいだったから。ありがたく頂いたつもりだけれど……構わなかったわよね?」

言い訳のように聞こえたのだろうか。

速人は頭を二三度横に振ると、袖口を辿っていた指をずらし、私の手首をやんわりと掴んだ。

「あの日、具合が悪かろうが最後まで抱いてしまえば良かった」

速人の仄暗い瞳は、懇親会で顔を会わせた時と同様、探る様に私の首の辺りを見る。

「もう痕なんか残ってないわ」

「……前と同じことをする訳にはいかないからな。我ながら良く我慢したよ」

「幾ら、私が貴方に買われた人間でもってこと?」

二年前のあの夜を、彼も引き摺っているのだろうか?

そう感じたのを肯定するかのように、彼の眉間に縦皺が出来た。

「言い過ぎだ」

「貴方が言った言葉じゃないの」

速人は繋いでいた私の手を離し、グラスの液体を煽る。

見る間に不機嫌な顔へと変貌していく彼を、小さく笑った。
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