純愛は似合わない
「何が可笑しい?」

私の棘を感じて不愉快になっているのだと思ったら、つい笑んでしまった。

「いつも眉間に皺を作ってるから。わざわざ不快な気分になりに来てるのかと思って」

唇を噛んで笑いを収める努力はしたが、この奇妙な状況はそれを抑えることが出来ない。

私が笑えば笑うほど、不機嫌さが増していくようで。

「お前がいつもそうやって、僕に爪を立てるからだ」

一言何か言うごとにウォッカを飲む速人は、忌々しそうにグラスを睨み、無い、と呟いた。

幾ら飲みたい気分だとしても、ペースが早すぎる。

「うちで泥酔なんて止めてよね」

「漸く飲めたんだ。いいだろ」

グラスをズイッと私の鼻先まで付き出し、再度お代わりを要求された。

溜息が口から漏れる。勿論、私のだ。

仕方無く彼のグラスにアルコールを注ぐと、先程よりも多くの雫がパジャマを濡らす。

「また濡らした」

速人の長くて大きな手が雫を拭うように、私の腿に触れた。

「……早紀」

手の平の熱を布越しに感じて思わず視線を上げると、至近距離まで近付いていた速人が掠れた声で私の名前を呼ぶ。

体を引こうとした私よりも、片手で私の二の腕を掴んだ速人の動きの方が速かった。

速人の酒臭い吐息が頬をかすめた。

そのすぐ後には、たどたどしい位ゆっくりとした動きの唇を耳朶に感じる。

嫌なら逃げろと言われた気がした。
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