純愛は似合わない
モートンホテルは首都圏に6軒ほど構える中堅処のホテルだ。老舗ホテルほどの格式や伝統は無いが、駅前にある利便性から宴会や結婚式が行われたり、観光やテーマパークへ行く人々の拠点としてカジュアルに使用されるホテルである。
そして、モートンホテル・ベイエリアは友野ソリューションズから見ると反対側の駅前にあった。会社側は飲食店が多く、モートン側は大型の商業施設が建ち並ぶ。
光太郎は今年の春、宴会部門の副支配人から総支配人へと昇進したのだ。入社して8年、早すぎると言われればそれまでだが、彼はいつも努力していたし、行く行くは私達の父から経営を受け継ぎ、全てを手にするに違いない。
光太郎と私は1時間ほど、モートンホテルの『宴会プラン』についての話しをした。
「単価については、人数をもう一度確認するから、その時で良いかしら。宴会担当の方に話しを通しておいてくれる?」
「分かった。期待に添えるようにこちらからもプランを練るよ。人数が多いだろうからね」
彼はチラリと時計に目を走らせる。本当は久々に早く帰れる日なのに、家族団欒の邪魔をしたようだ。
「話しは終わり。もう、良いわよ。解放してあげるから早く帰ってよ、パパ」
シッシッと手で払う仕草の私を見て、光太郎は「ひどいなぁ」と笑いながらビールに口を付けた。