純愛は似合わない
―――――
―――

「相変わらず、人の好さそうな顔してたね」

程無く光太郎が帰った後、ようやく手の空いたヒロが私のカウンター前に立って言った一言。

その言葉の棘に気付かない振りをして「それが光太郎ちゃんなのよ」と返すと、ヒロは鼻で笑う。

「でもさぁ、そういう人でも計算とか打算とかする訳だよね。あー人間て怖い怖い」

「いーや、そう言ってる今のあんたの笑顔のが怖いんだけど」

私の指摘にヒロはニヤリとする。
そんな悪そうな顔して、笑い掛けないでほしい。半径10メートル内にいる女達から、やたらと突き刺さる視線を受けるのは頂けない。

「早紀ちゃんも口悪いくせに、元カレにはぬるいんだね」

私と光太郎は確かに付き合っていた。だからと言って、当時大学生の私が彼と結婚の約束をしてた訳でもなく。
普通に恋愛して終わっていたのなら、それはそれで良かったのかも知れない。

問題は光太郎を奪った相手が、千加ちゃんだったことだ。

「光太郎ちゃんは今やお義兄さんだし。今日だって、あそこのホテルで懇親会やるのが社長様命令だから会っただけ、ってね」


グラスを拭いていた彼の手が止まり、視線が合う。

「早速、あの新社長と顔を合わせたんだ」

「随分、情報通じゃない」

「経済欄もちゃんと読んでるよ」

「あらら、勉強熱心。チャラいのを売りにしてるのかと思ってたわ」

「……」

キャッチボールしなさいよ。黙って上目遣いとか、止めてほしいわ。
< 19 / 120 >

この作品をシェア

pagetop