純愛は似合わない
「そんなに警戒しなくても大丈夫。少なくともこんな所で襲ったりしないし」

本気とも冗談ともつかない声色で囁く瀬戸課長を白い目で見た。

「瀬戸課長、それ以上言うとセクハラです」

課長は悪びれる様子もなく片隅にあるパイプ椅子を指差すと、休憩しようよ、と私の手を掴んだ。

仕方なく立ち上がると、彼は意外そうな顔をする。

「君が素直に言うことを聞くと、案外びびるもんだね」

「休憩くらいとりますよ」

私は椅子に座ると、受け取ったミルクティを口にした。

普段ならあまり口にしないような甘味を心地よく感じるのは、やはり疲れている証拠だ。


「……速人が君に執着するのも分かる気がする」

瀬戸課長はパイプ椅子の脇にあった長机に寄りかかって、自分用のコーヒーを飲み始めた。

「執着って何です」

「僕、何だか釘を刺されたんだけど。手出し不要みたいな感じでさ。面白いよね、あの冷静な男が腹立てたりするの」

……本当に悪趣味な人。

「あ。今、僕のこと嫌な奴だと思ったんでしょ。成瀬さんの目、冷たくってクセになりそう」

「コメントのしようがないこと、言わないで貰えます?」

軽く変態くさい発言と良い、 ケラケラと笑う瀬戸課長の、これが素なのだ。


「成瀬さんはさ、社長の妻の座に興味あるの?」

「瀬戸課長って、本当に変な聞き方しますよね」

「だってさ、縁故で入社してる女の子の何人かは、社長や従兄弟君の嫁さん候補だって重役連中は噂してるよ。皆、君の存在を知らないから」

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