純愛は似合わない
……とんだタヌキだ、全く。
私は自分の口元に人差指を置き、首を傾げて飛び切り悪戯な表情を作って、瀬戸課長を見詰めた。
その顔が男を落とすのに有効な手段であることくらい、充分認識している。
そして、10センチ程度しか身長差の無い瀬戸課長に、一歩二歩にじり寄り「……瀬戸課長は、試してみたいですか?」と耳元近く、低い声で囁いた。
その突然の変貌に、瀬戸課長の瞳は大きく見開かれた。
私が視線を真っ直ぐ合わせると、彼の顔は見る見るうちに赤くなった。
目には目をでしょ、と心の中で舌を出す。
「……な~んて、タイムアップです。瀬戸課長?」
私はようやく上って来たエレベーターから降りて来る同僚達に、いつも道理の楚々とした笑顔で挨拶しながら乗り込んだ。
完熟トマトと化した瀬戸課長を、エレベーターホールに放置したままで。
……ちょっとした口説き文句でからかおうなんて、100万年早いわ。
私は胸の中で悪態を吐く。
課長を温和で無害な上司だと思っていたが、認識を改めなくてはならない。
速人に何を聞いていたのか知りたくもないが、どうせロクな言われ方ではないのだろう思うと、これまた憂鬱な気分になった。
私は自分の口元に人差指を置き、首を傾げて飛び切り悪戯な表情を作って、瀬戸課長を見詰めた。
その顔が男を落とすのに有効な手段であることくらい、充分認識している。
そして、10センチ程度しか身長差の無い瀬戸課長に、一歩二歩にじり寄り「……瀬戸課長は、試してみたいですか?」と耳元近く、低い声で囁いた。
その突然の変貌に、瀬戸課長の瞳は大きく見開かれた。
私が視線を真っ直ぐ合わせると、彼の顔は見る見るうちに赤くなった。
目には目をでしょ、と心の中で舌を出す。
「……な~んて、タイムアップです。瀬戸課長?」
私はようやく上って来たエレベーターから降りて来る同僚達に、いつも道理の楚々とした笑顔で挨拶しながら乗り込んだ。
完熟トマトと化した瀬戸課長を、エレベーターホールに放置したままで。
……ちょっとした口説き文句でからかおうなんて、100万年早いわ。
私は胸の中で悪態を吐く。
課長を温和で無害な上司だと思っていたが、認識を改めなくてはならない。
速人に何を聞いていたのか知りたくもないが、どうせロクな言われ方ではないのだろう思うと、これまた憂鬱な気分になった。