純愛は似合わない
ことの始まりから、速人と私は結び付いていなかった。


速人と千加ちゃんが婚約したのは、私がまだ高校3年生の時。

婚約はそもそも、その頃のモートンホテルの状態が深く関係していて、大きな金銭が動いたのだと思う。

昔からの友人から融資を受けた父が言い出したのか、速人の両親が言い出したのかは定かでは無い。ただ、速人と成瀬の娘がいずれ結婚するということで双方の家が合意したらしかった。

千加ちゃんは、モートンホテルで働くことを夢見ていた私の気持ちを知っていたからこそ、婚約を承諾したようで。

「私は早紀ちゃんみたいにホテルのことは考えられないから。それに速人さんは素敵な人だし」と千加ちゃんは頬を染めて微笑んだ。


高校生の私が将来を決められるほど、速人を好きだったのかは分からない。ただ。

あの、婚約を知らされた時の衝撃は、未だに忘れられない。


速人兄さんが… 千加ちゃんと ……。


自分でも良く分からない感情が体の中を這い回る。

大事な何かがもぎ取られたような感覚だった。


その後も速人の父の尽力で、友野グループの所有するホテルのノウハウが注ぎ込まれ、母が亡くなる前から少しずつ斜陽をみせていたモートンの経営状態は改善されていった。

以前のような光りを取り戻していく、父の姿が純粋に嬉しかった一方で、やり場の無い気持ちを埋めたくて、告白してきた同級生と付き合ったりもした。

それは思ったほど上手くはいかなかったけれど。

高校生特有の好奇心と熱情で、求められるままに身体を重ねても、心が重なることは無かった。


そして私はより一層、モートンホテルで父を支える夢を見て、そこで光太郎と出会うことになる。
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