純愛は似合わない
友野グループのホテルから、交換研修で配属されたホテルマンの光太郎と会ったのは、東京近郊のモートンホテルだった。

大型のレジャー施設が近くにあるこのホテルは、夏休み中はフル稼働しなければ人手が足りなくなるほどの賑わいを呈する。

光太郎は忙殺されるような毎日を送りながら事務方をこなし、人手の足りない時はアルバイトスタッフと一緒になって汗を流した。

本人の穏やかな性格と、たまに覗かせる育ちの良さのせいだろうか。

正社員としてはまだ2年目の若さの割りに、どんなに忙しい時でも決して余裕を無くさない度量の大きさを持ち合わせていた。

聞けば、彼の父も友野のグループホテルの重役で、そんな父親に憧れて高校生の時分からホテルの客室係やレストランのウェイターのアルバイトをしたという。

私は光太郎に親しみを覚えた。

自分の父に憧れていると率直に語れる人は、何人いるだろう。

目標に向かって真っ直ぐ進む光太郎。

その彼から自分へと示された特別な好意を、いつしか受け入れていた。

光太郎と付き合い出したのは、大学3年目の秋だった。


一方、速人と千加ちゃん達は、婚約はしたものの3年近く経っても、一向に結婚する気配が無かった。

千加ちゃんにさりげなく聞いても「速人さんも私もまだ社会人として一人前じゃないから」と答えるだけだった。

高校を卒業すると同時に実家を出た私は、めったに速人と顔を合わせることも無かった。

速人の母の美好さんは、未来のお嫁さんである千加ちゃんも私も、相変わらず分け隔てなく可愛いがってくれた。

しかし美好さんの優しい誘いすら、私は受け入れることが出来なくなっていた。
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