純愛は似合わない
美好さんと出かけると、会わずに済んでいた速人に遭遇してしまう確率が跳ね上がる。それが嫌で堪らなかったのだ。



―― いずれは義兄と呼ばなくてはならない。



千加ちゃんをどうにか思うのも、速人を避けるのも間違った行為であるのは分かっているのに。

それでも千加ちゃんが一緒の時は、速人が彼女を庇護する姿を見るにつけ胸が傷み、千加ちゃんがいない時には、彼の言葉の端々から自分に向けられる棘を感じる度に、緊張が走った。

私のよそよそしさが、彼との関係を変えてしまったのかもしれないが、もう昔のように慕うことは出来なかった。


そして、光太郎と千加ちゃんが出会ってしまったことで、また関係は変化を遂げた。




「早紀っ」

突然の大きな声と、後ろから腕を強く引っ張る力に、体がビクリと打ち震えた。

「……何で?」

ワイシャツの袖を捲った、いかにも執務中の速人が、屈んで私を見詰める。

「具合が悪いのに片意地張ってる馬鹿な女がいるって、連絡が入ったから見に来たのさ。聞けば僕の女らしいし、な」

瀬戸課長の奴、わざわざ連絡するなんて。

「貴方の女なんてここにはいないし、就業時間が終わったら帰るつもりだったもの、心配不要って……何するのっ?! 降ろしてよっ」

いきなり膝裏に手を差し込まれ抱き上げられた私は、身体を捩ってもがく。

速人は顔をしかめたまま数歩だけ歩くと、長机の上へ私を乱暴に落とした。
< 54 / 120 >

この作品をシェア

pagetop