純愛は似合わない
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「確かに熱も有りました。……夏バテもしてました。でも、どうして貴方の家に泊まらないといけないの」

「39度2分も有るくせに、平気な顔をする鈍い奴が何言ってる。明日は久々に休みが取れたし、ちゃんと面倒を見てやるさ、お嬢さん」

さっきからの押し問答。

強制的に病院へ連れて行かれた後、 ウトウトしていた私が連れて来られたのは速人のマンションだった。

速人に軽く揺すり起こされ、半ば朦朧とした頭で運転手付きの車から降りると、いつもの見慣れた景色では無かった。

私の意識が覚醒したのは、黒塗りの車が走り去った後だ。

「ようやく取れたお休みなら、どうぞ有意義に使って」

「……自分の足で歩いていくのと担がれていくのと抱かれていくの、選ばせてやる」

速人の目は、いたって真面目だ。

転た寝した後に加わった頭痛で、今は頭がガンガンするのに。

私は我慢出来なくなり、 力が入らない手で 速人の腕を押した。

「もう何でも良い。……寝たい」

弱音を吐いた私を眺める速人の口元は、心持ち緩んでいた。

「意味深長だな」


速人はエレベーターを待つ間、寄り掛かって良い、と私の肩に手を回しながら頭を自分の胸元に押し付ける。

彼の鼓動は規則正しいリズムを刻んでいるが、私の方は早鐘を打っているのが自分でも良く分かった。

悔しいけれどこの心臓は、熱のせいでも頭痛のせいでもない。この男のせいだ。

いつになったら、何も感じなくなる日が来るのだろうか。

私は抵抗する気力も無く、なすがままに彼へ体重を預けた。




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