純愛は似合わない
「着替えて待ってろ」
そこは速人の寝室だった。
ベッドの上にはすでにパジャマが用意されていたが、足が動かない。
じっとパジャマを見詰めると、速人の口から私の気持ちを読んだような言葉が漏れた。
「さっき店に届けるよう手配した奴だ。他の誰のものでもない」
部屋を出て行く速人を見詰めながらベッドの端に腰を掛け、深く息を吐く。
そしてそのまま崩れるように、身体を横たえた。
キングサイズはあるだろう木目フレームのベッドは、昔のものとは違うようだ。
以前よりも部屋の色合いが淡くなった。昔は、黒を基調とした、いかにも男っぽい部屋だったのに。
柔らかい羽毛の寝具に身体が埋もれ、そこから香る速人のトワレに包み込まれた。
ただ眠りたい。
何も考えずに。
―― 夢の中の私は、大きなボートに乗っていた。
そこには若かりし日の両親が乗っていて、千加ちゃんもまだ子供だった。
私も楽しくて笑っている。
でも、夢の途中で私の意識が囁いた。
これって、夢よ。
最後に皆で出掛けたのなんて、いつのこと?
母が亡くなる前にはもう、家族でなんて揃うことすら、無かったのに。
深い深い意識の底に、また堕ちて行く。
今度は、光太郎と千加ちゃんがボンヤリと浮かび上がる。
『あの日突然、光太郎の部屋に行こうなんて思わなければ、あんな2人を見ないで済んだはずなのに』