純愛は似合わない
「眠りたいのは分かるが、もう少し我慢してくれ。薬も飲んでないし、もう一度着替えなきゃならない」

頭上で速人の声がして、重い瞼をゆっくりと開けると、彼の気遣うような視線に昔の面影を見た。


「……気持ち悪い」

速人は慌てて私の顔を覗き込む。

「吐きそうなのか?」

「速人が私に優しすぎるの、気持ちが悪い」

こみ上げて来る切なさを消したくて憎まれ口を叩くと、たちまち速人が苦笑する。

「口の減らない女だな」


速人はやれやれといった顔をして立ち上がり、足元に置いてあった高級そうなブティックの紙袋から、もう1着のパジャマを取り出して枕元へ置いた。

「……自分で着替えられるか?それとも手伝って欲しい? さっきだって着替えさせてやったんだから、恥ずかしがるのは今更だぞ」

彼は先程までとは一転し、からかうような口調で私の身体を抱き起こした。

「……どうもありがとう」

「ん、その礼は着替えを手伝えってことか」

わざと取り違えるなんて憎たらしい。

ニヤリと笑んだ速人の頬を、思わず摘まんだ。
力の入らない手ではあったけれど。

私のその行為に破顔した彼は、頬をつねろうとした手を握り、そのまま身体を引き寄せた。

「礼なんて言われるより、キスのひとつも貰った方が良いね」

病人にその顔は反則だ、と思うほどの色香を漂わせ囁いた。

「風邪、移して欲しい訳?」

速人は返事をする代わりに、触れるだけのキスを私の唇に落とした。
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