純愛は似合わない
彼は夕飯らしきサンドウィッチと薬を、トレイごとそっとサイドテーブルに置いた。

トレイを持った速人って、なんだかレアなものを見たのかも……。

動きの止まった私を見て、速人は眉を上げる。

その表情はよく見知った同期と似ていて、やはり血の繋がりは濃いのだな、と独り実感した。

「早紀、いつまでこれ見よがしにその脚を出してるつもりなんだ? 触って欲しいのなら、やぶさかでもないぞ」

やぶさかって。

速人は部屋から出ることもせず、ベッドの端に座ってこちらを眺めている。

私はノロノロとパジャマに脚を突っ込んだ。

少し寝たせいか、 身体を動かすと奥の方でくすぶるような痛みが残っているものの、 車を降りた時のような酷い頭痛は治まっていた。

そう言えば、と速人に他愛もない質問をぶつける。

「……速人は夕飯食べたの?」

「食べた」

「家政婦さんに作って貰ってるの?」

「週に何度かは」

この空気を変えようと話し掛けているのだが、ちっとも協力的でない。

速人の視線に晒されながら着替えるなんて……一体何のプレイよ。


「いただきます」

ようやく着替え終わった私は、速人の用意してくれたサンドウィッチに手を伸ばしたのも束の間。

さして湧かない食欲に手が止まる。

「ちゃんと食べろ。お前、痩せすぎだ」

瀬戸課長といい、速人といい、私の食欲にまでコメントしてくるとは。

この年代になると、口煩くなるのかしら。

もう言い返す気もしない。

「薬飲むんだから早く全部食べろ」

「はいはい。速人パパ」


これ以上、密な雰囲気に包まれる前に、さっさと食べて寝よう。
私は機械的にサンドウィッチを飲み込んだ。


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