純愛は似合わない
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敷島紫の冷たい目は、記憶の中の彼女と違(たが)わなかった。

彼女の顔を直接見たのは、過去に2度だけ。

初めて会ったのは速人がアメリカに発った、あの日。私が速人と一緒の朝を迎えた日だった。


就職先も恋人も無くした当時の私は、陰鬱な気分を抱えて日々を過ごしていた。残り少なかった大学生活さえ、思い出そうとしても未だ記憶が定かでない。

大学時代の友人・美湖に言わすと『脱け殻みたいで痛い奴』だったらしい。

そんな時、速人から「協力してほしい」との連絡を受けた。

千加ちゃん達のせいで、 友野前会長の出した 渡米するための条件が満たせなくなったと言うのだ。

条件。
それは人生の伴侶を見付けることだった。

赴任先から異国の地の女性を花嫁として連れてこられるのが嫌だったのか、お家存続を願った老人特有の心配性のせいなのか。


千加ちゃんと婚約解消をしてしまった速人には、もう時間が無かった。だからこそ、こんな私を必要としたのだ。

急場を凌げて、しかも結婚を急かすことの無い人間。

速人は、『婚約』という約束で妥協するよう、前会長と交渉したらしい。私がソリューションへ入社することも条件の1つにして。


私達は互いの目的のために契約を取り交わし、そして私は束の間、速人に依存した。


どんな形でも良い、頼られたい。
甘い囁きが欲しい訳じゃない。


『私』の存在理由を作って、と。


速人は貪るように私を抱いた。
それは、息つく間も与えられないほど性急だった。

まるで私自身が欲されていると、勘違いしてしまいそうなほどに。
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