純愛は似合わない
「公私混同も良いところ。懇親会でも御披露目会でも好きにやったら良いじゃない。貴方が指を鳴らせば、皆喜んでセッティングしてくれるんでしょう?」

私がパチンッと指を鳴らすと、速人は嫌そうな顔をして「外国かぶれか」と呟いた。


好き好んで海外生活を送っていた人間に言われたくはない。


「……ろくに実家へも顔を出していないらしいな。夕べ早紀の親父さんに会った時、嘆いておられた」

「ねぇ。ホテルの売り上げに貢献してやろうって話しなら、直接父に言ってよ。私じゃお役に立てないわ」


「早紀」と低い声が私を呼ぶ。

「いい加減、お前が折れてやれ」

速人の生真面目そうな瞳が、至近距離から私を真っ直ぐに射抜くものだから、居心地が悪くて堪らない。

「意味が分からない、っていうより、貴方がそれを言うのが分からない」

「分からない訳はないだろ?それが僕達の結んだ協定なんだから」

「……貴方がアメリカに行ってる間、ここで人質になるってヤツのね」

「人質じゃないさ、婚約者殿」

速人はふいに私の髪を一房摘まみ、唇を寄せた。

「やめて。それこそ契約外」

私が速人の手を振り払おうとしても、彼はぎっちりと髪の毛を掴んで離さない。

殆ど嫌がらせ?

速人は気も無いくせに私を追い詰めようとする。
その証拠に、整った口元が意地悪そうな笑みをたたえて歪んでいる。

「お前に選択権なんて無いの、忘れてるのか」

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