豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
居酒屋の中は、空調がきいてて暑い。ビールを飲む量も自然と増える。
ゆうみは割とお酒が強いのか、顔色一つかえずに飲んでいる。もう二杯目だろうか。同じ席の役者に話しかけられて、穏やかな笑顔で答えている。話すと普通の女性と変わらないのに、どうしてこんなに特別感があるんだろう。なぜか近寄りがたい。
孝志は先輩役者と、アルコールも手伝ってか楽しそうに話している。彼の声が聞きたくもないのに耳に入るのが、本当にしんどい。
なんできちゃったんだ、こんなとこ。
「ミツさん、もうそろそろ稽古場に来なくなります?」
輝は、光恵が油断していると、テーブルの下でそっと手を握ってくる。なんだか居心地が悪く、申し訳ない気持ちにもなったが、心強いのも確かだった。
「うん、そろそろ。わたしの仕事も終わりかな」
「初日まで覗きにきてくださいよ」
「う……ん、どうかな。バイトも結構いれてるし」
光恵は一口ビールを飲んだ。
来週からバイトを割とタイトに入れている。まだあの申し出を受けたわけじゃないのに、どういうわけか溝山先生の引き継ぎをさせられていた。彼女は少し膨らんで来たお腹を撫でて、幸せそうに微笑んでいた。
「つわりはつらいし、ここの皆さんにはご迷惑をおかけしてしまうけど、本当に子どもが欲しかったから、うれしくて」
彼女はそういった。
光恵よりも2歳上の、ちょうど30歳。光恵はこれまで、結婚や出産を意識したことがなかった。いかにこの仕事で食べていくか、そればかりを気にしていたのだ。だからそれほど年齢の違わない彼女が、光恵にも違う選択肢があることを思い出させた。
結婚か……。
あまりにも縁遠い。