豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「なっ、馬鹿じゃないの? 冗談じゃないってば」
光恵は身の危険を感じて、台本を手に後じさりした。
「ミツ、お願いします。ほんとにはしないから」
「あったりめーだ、馬鹿!」
「角度とか、手順とか、俺、わかんないし」
「わかんないわけないでしょ!」
「練習しなくちゃ、失敗するよぉ」
「わたしじゃなくても、いいじゃない」
「他に誰がいんの!?」
孝志は手を合わせて、光恵に懇願した。
「だ、大体、なんでこんな濃厚なベッドシーンのある作品を、受けたりしたの? できないなら、断ればいいじゃん」
「俺に作品を選ぶ権利は、まだないんだよーーー」
孝志は頭をもしゃもしゃとかきむしって、「わあ」と言ってつっぷした。
「マジ、嫌だから」
「お願い」
「ほんと、勘弁して」
「不安なんだ……」
ラグにつっぷした孝志から、か弱い声が漏れた。
どんな役柄でも、いつもあっという間に自分のものにするのに、どうしたんだろう。この仕事をしていれば、いずれはこんな役も演じなくちゃならないだろうに……。
光恵は少々不憫に思った。
「練習やってもいいけど、触ったら、即追い出すからね」
「うん」
「あくまで台詞と、身体の動きだけだから!」
「うんうん」
「オッケー、じゃあ、練習しよ」
光恵は気合いを入れて、再び孝志の側に座った。