13年目のやさしい願い
早く……早く行かなきゃ。
「……あの、あのね、わたし、今、ちょっと急いでいて」
「そうだった。特室Aって言ったっけ? ……今日、入院じゃないよね?」
「わ、わたしじゃなくて、……カナが、」
「え? ……叶太?」
子どもの頃から、いつだって、わたしの病室に入り浸りだったカナ。
カナのことは、裕也くんも知っている。
男同士だからか、裕也くんは、わたしは「ちゃん」付けだけど、カナのことは呼び捨てにしていた。
何年も前の話なのに、裕也くんはちゃんと覚えていた。
「カナが事故にあって……意識がないから。
……だから、側についていてって、ママが、」
声が震える。
手も足も、まるで自分のものではないみたいで、温度を感じない。
カナ。
行かなきゃ。
早く……行かなきゃ。
焦る気持ちとは裏腹に、足がまるで前に出なかった。
「行こう」
裕也くんはスッと真顔になって、力強く、わたしの手を引いた。