13年目のやさしい願い


「でさ、2人きりで話せる時間、もう平日の朝しかないと思って、学校に行く前に来たのに、またいるんだもん、焦ったよ」

「え? ……あ、もしかして、朝のノック」

「うん。それ、多分、オレ。

こんな時間にいるなんて、反則じゃない?」



一ヶ谷くんはぼやく。

一歩間違ったら、わたしが返事をして、カナと鉢合わせをしていた。

そうしたら、どうなっていただろう?



「それじゃあ、オレ、行くね」

「うん」



と答えてから、思い出す。



「あ! 待って!」

「どうしたの?」



慌てるわたしとは対照的に、一ヶ谷くんは落ち着いていた。



「あのね、篠塚さんって、もう、こんなことしない?」

「え?」

「カナのこと、諦めた?」



ああ、と一ヶ谷くんが笑った。



「もう大丈夫だと思う。あれだけハッキリ言われて、これ以上、あがく勇気はないんじゃないかな」

< 354 / 423 >

この作品をシェア

pagetop