13年目のやさしい願い
「でさ、2人きりで話せる時間、もう平日の朝しかないと思って、学校に行く前に来たのに、またいるんだもん、焦ったよ」
「え? ……あ、もしかして、朝のノック」
「うん。それ、多分、オレ。
こんな時間にいるなんて、反則じゃない?」
一ヶ谷くんはぼやく。
一歩間違ったら、わたしが返事をして、カナと鉢合わせをしていた。
そうしたら、どうなっていただろう?
「それじゃあ、オレ、行くね」
「うん」
と答えてから、思い出す。
「あ! 待って!」
「どうしたの?」
慌てるわたしとは対照的に、一ヶ谷くんは落ち着いていた。
「あのね、篠塚さんって、もう、こんなことしない?」
「え?」
「カナのこと、諦めた?」
ああ、と一ヶ谷くんが笑った。
「もう大丈夫だと思う。あれだけハッキリ言われて、これ以上、あがく勇気はないんじゃないかな」