13年目のやさしい願い


コマを手に取り、はにかみながら、


「ありがとう」



と言ってくれた一ヶ谷くんを思い出す。



別の日にも一言、二言、話をした。

どんな言葉を交わしたかは覚えていない。

会う度にケガは少しずつ良くなっていて、ある日、病室に行くといなくなっていた。

最後まで、整形に行かずに小児科にいた一ヶ谷くん。

もしかしたら、「ここでいい」って言ったのかも知れない。





篠塚さんは一ヶ谷くんのお兄さんに、何年も片想いをして、高校まで追いかけていった。

お兄さんに彼女ができていたと知った時、どう思ったんだろう?



カナに助けられた後、どうしてカナを好きになったんだろう?



ずいぶんと偉そうな人だと思った。

ひどい言葉をたくさん浴びせかけられた。

冷たい人だと思った。

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