10円玉、消えた
ところがその日の夜、店が終わり杉田が帰ると、竜太郎が切り出す前に幸子の方から話しを持ちかけてきた。
「竜太郎、この店カッちゃんに譲ろうと思ってるんたけど、どうかな?」
意表を突かれ竜太郎は戸惑う。
「え、譲るって?」
まさか母さんから言い出してくるとは。
しかも予想していた最悪の展開だ。
またも薫のカンが当たってしまった。
幸子は返答を促す。
「ねえどうかな?実際もうこの店はカッちゃんのおかげで成り立っているだし。譲ってやるのが一番だと思うんだけど」
「譲ったらどうなるんだい?」
「別に大して変わらないよ。家はこのままだし、私もここで働くし。ただ店の持ち主がカッちゃんになるわけだから、今度は私がカッちゃんから給料を貰うんだよ。それから家賃もね」
「でもカッちゃんはどっか他で店を出したがってたんじゃなかったっけ?」
「そうだったんだけどね、なかなかいい物件が無いらしいんだよ。このご時世じゃ家賃やら何やら色々と高いしね。それにカッちゃんはこの店にスゴく愛着があるみたいなんだよ」
それを言うなら“この店に”じゃなくて“この私に”だろ、と思いながら竜太郎は黙って幸子の話しを聞いていた。
「竜太郎、この店カッちゃんに譲ろうと思ってるんたけど、どうかな?」
意表を突かれ竜太郎は戸惑う。
「え、譲るって?」
まさか母さんから言い出してくるとは。
しかも予想していた最悪の展開だ。
またも薫のカンが当たってしまった。
幸子は返答を促す。
「ねえどうかな?実際もうこの店はカッちゃんのおかげで成り立っているだし。譲ってやるのが一番だと思うんだけど」
「譲ったらどうなるんだい?」
「別に大して変わらないよ。家はこのままだし、私もここで働くし。ただ店の持ち主がカッちゃんになるわけだから、今度は私がカッちゃんから給料を貰うんだよ。それから家賃もね」
「でもカッちゃんはどっか他で店を出したがってたんじゃなかったっけ?」
「そうだったんだけどね、なかなかいい物件が無いらしいんだよ。このご時世じゃ家賃やら何やら色々と高いしね。それにカッちゃんはこの店にスゴく愛着があるみたいなんだよ」
それを言うなら“この店に”じゃなくて“この私に”だろ、と思いながら竜太郎は黙って幸子の話しを聞いていた。