10円玉、消えた
源太郎は「商売やるんだから計算に強くならんとな」と、竜太郎を小学校のうちからそろばん塾に通わせた。
この時代、小学生が塾通いするのは結構珍しいこと。
“子供は元気よく外で遊ぶもの”という風潮がまだ色濃くあったからだ。

そのため、竜太郎は塾に行かずに遊んでいる小学生を羨ましく思った。
しかしその反面、そろばんの玉を弾く面白さに魅了されてもいた。
だからそろばん塾は真面目に通い、計算力がみるみるアップ。
従って、いまでも竜太郎の一番の得意科目は数字である。

店の手伝いもよくやらされた。
近所の人たちは「エラいね、リュウちゃんは」と感心し、竜太郎は益々張り切った。

たまに試しにラーメンを作らされたこともあった。
そのとき、出来上がったラーメンを見て幸子は大ハシャギ。
「お父さん、この子スジがいいんだね」

「当たりめえだ、俺の息子だぜ」
と源太郎も実に満足気に言ってたものだ。

こうして竜太郎には、ラーメン屋になるためのレールが敷かれていた。
そして彼自身も店を継ぐのは覚悟の上であった。

しかしいまの“会社員になれ”という母の発言。
それに、まるで仕事に意欲がないような父の態度。

竜太郎は首を傾げた。

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