10円玉、消えた
従って『らあめん堂』の味は好評で、その頃は離れたところからでもわざわざ食べに来る人も多くいた。
まさに絶頂期であり、当然夫婦仲は何も問題がなかった。

とこが5年前、隣り町の街道沿いに大きなショッピングセンターができたことにより、商店街が大きく傾き始めた。
それに呼応して『らあめん堂』も下降線を辿る。

更に“オイルショック”による不景気がそれに拍車をかけ、そして数ヶ月前の例のスーパー開店がトドメとなった。

商店街は閑散。
当然『らあめん堂』の売り上げもガタ落ちといった有り様だ。

源太郎は仕事にやる気をなくし、夜遊びに走るようになり、夫婦仲崩壊の危機に陥った。
絵に描いたような転落劇である。

源太郎が夜遊びするようになったのは、やはり商売不振が一番の原因であろうと考えられる。
ただ、果たしてそれだけだろうか?

なぜなら、ショッピングセンターとオイルショックのダブルパンチを食らっても、そのときは夜遊びなどすることもなく、めげずに彼は頑張った。
なんとか商売を立て直そうと意欲を燃やしていたのだ。

「いまが踏ん張りどこ。これを乗り切りゃ大丈夫だ」
源太郎は幸子に盛んにそう言っていたのだから。

< 28 / 205 >

この作品をシェア

pagetop