10円玉、消えた
源太郎は新聞紙をめくる手を止め、しかめっ面になった。
幸子はアイロンがけを再び中断し、源太郎の顔を覗き込んだ。

「知ってる人かい?父さん」
竜太郎は答えを急かす。

しかし源太郎は何も答えない。

竜太郎はもう一度聞く。
「なあ父さん、“さんげんざか”て人、知ってるのかい?」

“知ってる”とも“知らない”とも答えず、今度は源太郎の方から尋ねる。
「その爺さんとどこで会った?」

「ほら、あそこの公園さ」
竜太郎はその方向を指さした。

この辺りで“公園”といえばそこしかない。
小さくて寂れているため、大人も子供も余り利用しないが、この町の誰もが知っている場所である。

「何時頃会った?」
源太郎はまた尋ねる。

「え~っと、夕方5時か5時半くらいかな」

源太郎は今度は何の反応もなかった。
下を向いて、何か考え事をしてる様でもある。

竜太郎はいいかげん答えが知りたくなった。
「やっぱ知ってる人かい?」

「ああ、一応な」
ようやく源太郎は返答する。

「なんかヘンな爺さんだったよ。いきなり“占いをしてあげよう”なんて言ってきてさ」

「竜太郎、その爺さんとは、もしまた会っても相手にするな」

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