10円玉、消えた
ノンストップで通り過ぎようとした竜太郎だが、父親の姿が目に入り足を止めた。
源太郎は腕を組み、ベンチのほぼ中央にデーンと座っている。
顔を自分の足元の方に向けているため、竜太郎に全く気づかない。

それでも竜太郎は物陰に隠れ、その様子をこっそりと眺めた。



何してんだろう?一人でボーっとして。
またお袋と喧嘩して、気分晴らしにここに来たんだろうか?
あ、ひょっとしてあの老人を待っているのかも。
昨日あの老人の話をしたとき、父さんは会った場所と時間を俺に聞いてきた。
学校を出たとき4時40分くらいだったから、たぶんいまは5時近く。
そうだ、きっとそうに違いない。



あの老人と会ってどんな話しをするのか、竜太郎には父親の動向が大いに気になるところだ。
昨日の源太郎の言動から、二人の間が何かワケありなのは明白。
竜太郎は、まるで張り込み捜査をする刑事の気分だった。

ところが、辛抱強く待つこと20分、一向に展開がない。
源太郎は辺りをキョロキョロしたり、足踏みしたり、頭を掻いたりと、かなり苛立った様子。

一方竜太郎は欠伸を連発。
昨日に引き続き、また時間を無駄にしたかな、と後悔し始める。

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