甘い唇は何を囁くか
目の前で一人悶絶している姿を見ていると、はじめてこいつを見たときのことを思い出す。

最初もホテルの椅子に腰掛けて、自問自答を延々を繰り返してた。

日本人の女なんて珍しくもなかったし、ホテルには喰いやすそうな女が結構いたから

一目見たときは、正直食指はあんまり動かなかった。

もっと旨そうな女はくさるほどいる。

こんなめんどくさそうな女はごめんだって、そう思った。

今もそうだ。

気まぐれに手を出して、あんな何百年も生きてる奴とバトルことになるのは面倒だ。

進んで、不老を手放すのもわずらわしい。

望まれて―、女を抱く。

その権利がこちらにはあるのに。

ぽろぽろと泣いているその涙が、月の光にあてられて僅かに輝いて見える。

バカらしい―

そう思っているのに、どこか身体の芯が疼く。

やってらんねぇ。

「おい、つかそこでやっちまうぞ。」

遼子はびくりと身をすくめ、顔を上げた。

な~んて顔でこっちを見てんだ。

俺は悪魔か悪者か?

女なんてより取り見取りで、別にこんな嫌がる女に手を出さなきゃならないような立場じゃない。

くっそ

なのに、傷つけてんのかと思うと少し罪悪感が芽生える。

ちっと舌打ちして、ずかずかと遼子に歩み寄った。

そんでもって、その白くて細い腕をがしっと掴んで引っ張る。

いやっとか言いやがって身を引くのが分かったけど、強引に引きずると、遼子はばたりとその場に倒れた。

倒れたってか、こけた。

「あ、悪い・・・。」

そう呟いて、遼子の腕から手を離す。

遼子は素早く手を体に引き戻して小さく肩を振るわせ始めた。

怖い

っていうか

はっきりとした拒絶

俺にだって傷つく心があるってこと、こいつはきっと今は考えてないに違いない
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