甘い唇は何を囁くか
ホテルを離れ、2人はしばらく無言のまま歩いていた。

酒と女の香りが漂いはじめて、宗眞が口を開いた。

「な、ちょい寄らね?」

シスカは答えずに宗眞を見返した。

こいつを、殺したい。

だが、…

シスカが自分からスイと顔を背けて店に入ると、宗眞は微笑して後に続いた。

BOX席に宗眞とシスカは向かい合って座った。

強めのジンを頼み、運ばれてくるまでに人間の女が2人の隣に腰を下ろした。

甘い香りが漂う。

宗眞は女を見やり言った。

「ま、今はこれで我慢するとして、どうする?」

「…」

運ばれてきたコップを掴んで、中身を一気に飲み干すと、シスカはため息をついて呟いた。

「お前を、なぜ忘れていたんだー。」

「へ?」

「…遼子は、お前のことも覚えているはずだった。もちろん、俺のこともー。」

「…あー、あんた、それを言う為にあん時…。」

「お前を忘れるのは構わない。だが、なぜ俺の事までー。」

二杯目のジンを煽りながらシスカは髪をかき上げた。

「ふーん、なるほどね。じゃ、遼子はあんたの事だけでなく俺との事も忘れたかったわけだ。」
< 215 / 280 >

この作品をシェア

pagetop