甘い唇は何を囁くか
街中に出てくることはそう珍しいことではない。

娘の清香も10代になる前より、よほど血への渇望を抑えることができるようになってきていたし、何より新しいものを知りたいという探究心が酷く旺盛だった。

人間のように学校へ通い、友人を作り、遼子の作った弁当を食べ、時にはバースデイパーティーもひらく。

遼子は、それに喜んで応じていたし、そんなふたりの仲むつまじい姿を見ているのは幸福だった。

だから、だろう。

この胸に刺さった棘は、いつしか抜けて綺麗に消えていた。

遼子を人間から同胞に変えた紅い目の男のことを―。

そして、きっと・・・

清香の本当の父親である・・・あの男のことを・・・。

嫌いになれないと、そう思ったのはこういう未来を予見していたからなのかもしれないな。。

自嘲気味に笑い、シスカは清香を解放した。

「おじさんもヴァンプなの?」

人懐っこい笑みを浮かべ、シスカの指先に手を絡めたまま清香が言う。

宗眞は、ああ、うんと答えて頷いた。
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