甘い唇は何を囁くか
「宗眞のことは嫌いじゃないのよ?」

ごめんなさい、を言い終えてなお、言い寄る宗眞を振りほどく為にホテルを出たはいいけれど、とうの宗眞は今も自分の隣にいてあの不敵な笑みを浮かべている。

「嫌いじゃないなら問題ないじゃん。」

「私が駄目なの。問題あるの。」

太陽は中天というところ。

まさか、またばったりとあの人に会うことはないとは思うけど、これ以上余計な誤解を与えたくはない。

「だから、宗眞とは付き合えない。もうっ、これじゃあ一緒に出かけてるみたいでしょ、どっか行ってよ!」

あの人が、もし遼子に呆れて行ってしまったんだとしたら、そんな事を考えている自体、無意味なんだろうけれど―。

「可愛くねぇなぁ。」

「可愛くなくて結構です。」

「なぁ、とりあえずさぁ今日の晩飯どうする?俺、美味しいとこ知ってるぜ?」

宗眞のすごいところはこのへこたれないところよね。

普通、こんなにはっきりと拒絶されたら・・・がっくりきてしまうはずだと思う。

それとも、やっぱり本気ではないから、こんなに適当な感じなんだろうか。

遼子は肩を落とし、はぁとため息をついた。

「晩飯は一人で食べます。宗眞くん、もう良いですからおうちに帰りなさい。」

そういえば・・・。

そこまで言ってから、遼子は宗眞の顔をぼんやりと見つめた。

宗眞と逢うのは、これで2回目だけどどこに住んでいるのだろうか。

まさか、あのホテルに泊まっているわけではないとは思うけれど・・・。

「何、俺の事知りたくなった?」

だから、どうして宗眞は何も言っていないうちから、心の中で考えていることを言い当ててしまうのだろうか。

遼子はふいと視線を逸らして再び歩き始めた。

「別に?」

「またまたぁ、もうさぁあのオッサンのことは忘れて、俺にしとけば?」


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