甘い唇は何を囁くか
高鳴る心臓の音―、香り・・・。

だが、そうだ・・・。

このままこの愛しい者と肉体を交えれば、間違いなく死が訪れる。

死ぬ・・・。

―死んでしまうのだ。

遼子は、はあはあと荒い息を吐きながら目じりの涙をつうと頬に伝わせてシスカを見つめている。

奪うは容易い。

だが・・・。

シスカはゆっくりと首を振った。

殺せない―。

死なせたくない・・・。

遼子の頬に口付け、間を開けずにその唇を塞いで、それから身体を離した。

ギシッ

ベッドのスプリングが鳴り、遼子は自分から離れていったシスカを困惑した面持ちで見つめている。

欲しい・・・。

あの身体が、あの続きが・・・。

ぎゅっとこぶしを握り締め、脱ぎ捨てたシャツを引っつかむと顔を伏せた。

「・・・シスカ・・・?」

当然の問いかけだ。

どうしたの、と続けることも憚られているのだろう、その不安に満ちた声に、どんな顔をしているのか確かめる勇気がない。

シスカはその傍に駆け寄りたくなる衝動を堪えるために両足に力を込めた。

そして、俯いたまま言った。

「・・・お前を抱けない。」
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