叢雲 -ムラクモ-
「え。ゆずちゃん? 来てないよ」
「そうか……」
俺は女子バスケ部の部長である中沢に聞いてみたが、答えはさっきのとおりだった。
「なんかあったの? ゆずちゃん、松ちゃんのクラスだよね」
「ああ……ちょっと。校内放送かけてみるよ、じゃあな」
中沢から離れ体育館を出ようとした俺の後ろから、待ったの声がかかった。
「ゆずちゃん……なんか、怪我多いんだよね」
「は? バスケしてたら怪我のひとつやふたつするだろ」
「そうじゃなくてさ」
中沢は持っていたボールをゴールにシュートして、ボールを拾わないまま俺のところまで走ってきた。
ボールは後輩が拾っている。
「いじめ、受けてんじゃないかって。あたし心配してんの」
「……いじめ、だぁ?」
あまりに俺がすっとんきょうな声を出したからだろう、中沢はふっと笑うように息をはくと、
「……怪我、バスケでするのももちろんなんだけど、それ以外にもしてるんだ」
視線を落とした中沢の目に、俺はうつっていない。
「ほらゆずちゃん、あんな目だしさ」
「あの、青い瞳か」
「そうだよ。それでいじめ受けてんじゃないかな」
そんなまさか。と、思う。
だが、頭をよぎったのは昼休みの出来事で。
『う……うん。早弁しちゃってさー。先生のちょっと頂戴?』
『やらん。お前、なんか隠してないか?』
『か、隠すって……何を』
弁当、取られでもしてたのか。
そういやあいつ朝もいっつも一人で、俺と登校してんだよな。
『先生! おはよっ』
『はよ。……また一人か、北川』
『別にいいじゃん』
……有坂は友達のはずだが、なんで一緒に登校しねえんだ? 家が遠いわけでもないのに。
「……とりあえず、放送かけてくるわ」
嫌な予感を打ち消して、俺は二年校舎の放送室へ走った。
「そうか……」
俺は女子バスケ部の部長である中沢に聞いてみたが、答えはさっきのとおりだった。
「なんかあったの? ゆずちゃん、松ちゃんのクラスだよね」
「ああ……ちょっと。校内放送かけてみるよ、じゃあな」
中沢から離れ体育館を出ようとした俺の後ろから、待ったの声がかかった。
「ゆずちゃん……なんか、怪我多いんだよね」
「は? バスケしてたら怪我のひとつやふたつするだろ」
「そうじゃなくてさ」
中沢は持っていたボールをゴールにシュートして、ボールを拾わないまま俺のところまで走ってきた。
ボールは後輩が拾っている。
「いじめ、受けてんじゃないかって。あたし心配してんの」
「……いじめ、だぁ?」
あまりに俺がすっとんきょうな声を出したからだろう、中沢はふっと笑うように息をはくと、
「……怪我、バスケでするのももちろんなんだけど、それ以外にもしてるんだ」
視線を落とした中沢の目に、俺はうつっていない。
「ほらゆずちゃん、あんな目だしさ」
「あの、青い瞳か」
「そうだよ。それでいじめ受けてんじゃないかな」
そんなまさか。と、思う。
だが、頭をよぎったのは昼休みの出来事で。
『う……うん。早弁しちゃってさー。先生のちょっと頂戴?』
『やらん。お前、なんか隠してないか?』
『か、隠すって……何を』
弁当、取られでもしてたのか。
そういやあいつ朝もいっつも一人で、俺と登校してんだよな。
『先生! おはよっ』
『はよ。……また一人か、北川』
『別にいいじゃん』
……有坂は友達のはずだが、なんで一緒に登校しねえんだ? 家が遠いわけでもないのに。
「……とりあえず、放送かけてくるわ」
嫌な予感を打ち消して、俺は二年校舎の放送室へ走った。