叢雲 -ムラクモ-
「え。ゆずちゃん? 来てないよ」

「そうか……」

俺は女子バスケ部の部長である中沢に聞いてみたが、答えはさっきのとおりだった。

「なんかあったの? ゆずちゃん、松ちゃんのクラスだよね」

「ああ……ちょっと。校内放送かけてみるよ、じゃあな」

中沢から離れ体育館を出ようとした俺の後ろから、待ったの声がかかった。

「ゆずちゃん……なんか、怪我多いんだよね」

「は? バスケしてたら怪我のひとつやふたつするだろ」

「そうじゃなくてさ」

中沢は持っていたボールをゴールにシュートして、ボールを拾わないまま俺のところまで走ってきた。

ボールは後輩が拾っている。

「いじめ、受けてんじゃないかって。あたし心配してんの」

「……いじめ、だぁ?」

あまりに俺がすっとんきょうな声を出したからだろう、中沢はふっと笑うように息をはくと、

「……怪我、バスケでするのももちろんなんだけど、それ以外にもしてるんだ」

視線を落とした中沢の目に、俺はうつっていない。

「ほらゆずちゃん、あんな目だしさ」

「あの、青い瞳か」

「そうだよ。それでいじめ受けてんじゃないかな」

そんなまさか。と、思う。

だが、頭をよぎったのは昼休みの出来事で。

『う……うん。早弁しちゃってさー。先生のちょっと頂戴?』

『やらん。お前、なんか隠してないか?』

『か、隠すって……何を』

弁当、取られでもしてたのか。

そういやあいつ朝もいっつも一人で、俺と登校してんだよな。

『先生! おはよっ』

『はよ。……また一人か、北川』

『別にいいじゃん』

……有坂は友達のはずだが、なんで一緒に登校しねえんだ? 家が遠いわけでもないのに。

「……とりあえず、放送かけてくるわ」

嫌な予感を打ち消して、俺は二年校舎の放送室へ走った。
< 7 / 45 >

この作品をシェア

pagetop