よりみち喫茶
「お客さんよ」
棚から取り出した銅製のケトルに水を注いで火にかけながら答えると、はるくんがカーテンの向こうとこちらを交互に見つめて、そっと立ち上がる姿が視界の端に映った。
視線を上げて様子を伺っていると、そっとカーテンに手をかけて、ほんの少しだけ開いた隙間から店の方を覗いている姿に、小さく笑みがこぼれた。
「はるくん」
お湯が沸いたタイミングで声をかけると、ゆっくりと振り返ったはるくんがこちらを見上げる。
「ここに来て。今からやること、よく見て覚えて」
自分の隣にパイプ椅子を出して手招くと、不思議そうに首を傾げながら、それでも素直にやって来て靴を脱いで椅子に上がった。
「いい?まず注文が入ったら、このケトルに水を注いで火にかける。火を止めるタイミングは、沸騰の直前よ。表面に、ポコポコって気泡が出て来た時ね」
小さな頭がコクりと縦に振られたのを確認して、今度は棚からティーポットとカップ、それから茶葉の入った容器とティースプーンを取り出してきて、はるくんの前に並べる。