よりみち喫茶

こちらもお金をかける余裕がなくて、わたしが手書きで書いたメニューを、男性が上から下まで順番にゆっくりと眺めていく。

普通に文字を書くよりもずっと気を使って丁寧に書いたつもりだったが、見え辛い箇所があったらどうしよう……とドキドキしながら男性の姿を眺めていると、ゆっくりと動いていた視線が、ある一点でピタリと止まりそのまま動かなくなった。

それは、メニューの一番下、他の喫茶店にもよくあるようなラインナップの中に、ひっそりと紛れ込ませたこの店だけの“特別”。


“マスターオリジナル(特別ブレンド)”


「気になりますか?」


しばらく経ってもそこから動かない視線に、思い切って声をかけてみた。

突然声をかけられたことに驚いたように顔を上げたその人と目が合い、今度はニッコリと微笑み返す。


「その日の気分で、特別にブレンドしたものをお出ししているんです。あっ、もちろん味は保証しますよ」
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