甘い恋飯は残業後に
この球技場はフィールドとの距離が近いせいか、選手の顔が中段の席からでもはっきりと見える。
兄貴は試合前だというのに緊張感も無く、学生時代と変わらず女性に無駄に愛想を振りまいている。その光景を呆れながら見ていたからか、兄貴はすぐにこちらに気がついた。
「おお、万椰ー!」
お願いだから大声で呼ばないでほしい。案の定、女性陣から睨まれてしまった。
兄貴はそんな状況などおかまいなしに、営業スマイルばりの笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。わたしも女性陣の視線を受け流しながら、兄貴の方へと近づいた。
「来てくれて嬉しいよ、兄ちゃんは」
「まあ、約束だからね。ああ、これ差し入れ」
バッグの中からボトルを取り出し、フェンスの隙間を通す。ここは芝生から高さがある為、出来る限り手を伸ばして兄貴の立っている場所へポトリとうまく落としてやった。
「これ! バーサンがえらく気に入ってたやつだな」
「ねえ、その“バーサン”って一体……」
「バーサンなら今日、一緒に試合出るよ。あ、噂をすれば」