甘い恋飯は残業後に


「おい、原田。お前、奥さんも子供もいるだろ。万椰にちょっかい出すなよ」

見かねて叔父さんがカウンター越しに原田先輩を窘めてくれた――が、馬の耳に念仏、酔っぱらいに説教。聞く耳など持っていない。


ていうかこの人、妻帯者なのか。

声も大きくて外ではリーダーシップを発揮してそうなタイプだけど、案外、家では奥さんの尻に敷かれて弱い立場なのかも。経験から言えば、そういう人程、酒癖が悪い。


「うちの奥さんなんて、マヤちゃんに比べたら塵だよ塵! 宝石のように輝いているマヤちゃんが傍にいてくれたら、きっと幸せだろうなぁ」

あなたは塵と結婚したんですか、と喉まで出かかった。

仮にも自分の奥さんを塵扱いするなんて。たとえその場のノリで言っただけだとしても、気分が悪い。


さすがにもう笑顔は作れない。余程わたしの顔が引きつっていたのか、叔父さんはわたしを見て苦笑している。

原田先輩はこちらの様子などお構いなしに、グラスの赤ワインをあおってから話を続けた。


「でもなぁ。マヤちゃんは経験豊富そうだからなぁ。俺なんか一発で捻りつぶされそう。『短小のお前のなんかじゃ満足できねーんだよ』とか言われてさぁ」

ただでさえ地声が大きいのに、酔ったことによってそれが倍になっているものだから、先輩のその言葉はみんなに聞こえたようだ。

店内は一瞬にして笑いに包まれる。


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