甘い恋飯は残業後に
和個室は、一気にまた静まりかえった。
「万椰さん……」
隣にいた水上ちゃんが、心配そうにわたしの名前を呼ぶ。
――だめだ。
「……ごめん、ちょっと」
わたしは立ち上がり、近くに置いていた鞄を掴む。人の横を通り抜け、襖を開けた。
確かめずに来たけど、彼はもう店の外に出ていったようだ。声はまったく聞こえてこない。勢いよく立ちあがったのに、また席に戻るなんて、そんな間抜けなことにならずに済んでよかった。
「桑原」
わたしを呼んだ声が誰なのかは、すぐにわかった。わかったけど、振り向けない。
「……すみません」
その人に聞こえたかはわからないけど、十分声は出ていたと思う。わたしはそのまま後ろ手で襖を閉め、店の外に出た。
あの場に居続けられる程、わたしは図太い神経は持ち合わせていない。きっとみんなだって、わたしの扱いに困る。