甘い恋飯は残業後に
「今日は、高柳さんの店はやめろ」
「……何ですかそれ、仕事でもないのに指図しないで下さいよ……っ。難波さんこそ、飲み会抜けてきて何してるんですか?!」
声を荒らげた瞬間、一気に感情が昂った。
まずい、泣きそうだ。涙が出ないようにぐっと下唇を噛みしめる。もう、この人の前で不用意に泣くもんか。
……本当は、難波さんがわたしを心配して追いかけてきてくれたのだということぐらい、ちゃんとわかっている。
だからこそ、ここで泣きたくない。泣いたら、まるでわたしがそれを望んでいたように思われてしまう。
そこまでわたしは脆い人間じゃない。この容姿のおかげで、随分と鍛えられた。
「あんなかたっ苦しそうな店、俺の性に合わない」
「……は?」
「どうせ他で飯食うつもりなら付き合えよ」
難波さんは掴んでいたわたしの腕を引いて、どんどんと歩き出す。
「あの、腕、痛いです……っ」
「ああ、悪い」
難波さんは立ち止まって、わたしの腕を離した。が、目を細め、横目でこちらを睨んでいる。
「逃げるなよ?」
「……逃げませんよ。そんな顔しなくても、ちゃんと一緒に行きますから」
「ならいいけど」
ここで逃げたら、かえって厄介なことになるのが目に見えている。
わたしは黙って難波さんの一歩後ろを歩いた。