甘い恋飯は残業後に



しばらく歩いて辿り着いたのは、ビルの上階にある小洒落た居酒屋。難波さんが途中でお店に電話を入れていたこともあり、すんなりと個室に案内された。

「わ、綺麗……」

その部屋には大きな窓があり、夜景を眺めながら食事が出来るようになっていた。オフィス街の高層ビル群が、まるでイルミネーションのように明るく煌めいている。

「いい店だろ。ここは洒落てはいるけど、さっきの店みたいに肩肘張ることもない」


席について、難波さんが広げてくれたメニューを見る。居酒屋らしいメニューではあるけど、要所要所、この店のこだわりが窺える。

「ここは焼酎の種類が豊富なのが売りだが、ワインもそこそこいいものを揃えてある」

彼はそう言ってくれたけど、わたしは難波さんと同じ焼酎のソーダ割りにした。せっかくこういう店に来たのだから、どうせなら店が売りにしているものを飲んでみたい。


ホタルイカの沖漬け、京水菜と大根のサラダ、鮭のはらす炭火焼きを頼み、乾杯して落ち着いたところで――訪れた、静けさ。


恐らく、難波さんからは何も訊いてこないだろう。


この人は変人で強引で勝手な人ではあるけど、他人のことに土足でずかずかと踏み込んでくるような人ではない。以前だって、そうだった。


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