甘い恋飯は残業後に


「未経験で何がおかしい?」

「え……だって、この歳で――」

「歳は関係ないだろう」

諭す構えか、難波さんはこちらに向き直る。

「早く経験した奴が偉い訳でも、凄い訳でもない。早く経験しなきゃとよく考えもせず簡単に捨てて後悔するより、自分を大事にしている方がいいとは思わないか。世の中の風潮に踊らされ過ぎなんだよ」


――それは、そうだけど。

でも実際、この歳で『処女なんだ』と言えば、男女問わず大抵の人達は引くだろう。

世の中の風潮に毒されているのはわたしだけじゃない。みんな、流れに乗らなくちゃいけないと思ってる。流れに動じず自分を貫けるのは、よっぽど心が強い人か、鈍感な人だけだ。


「……みんな、難波さんみたいに“踊らない人”ばかりだったら、こんなことで悩まなくても済むんでしょうけどね。多分、わたしぐらいの年齢で未経験の人は、厄介なものを背負ってしまったと思っている人がほとんどなんじゃないですか」

少しだけ、言葉に嫌味を混ぜてしまった。

わたしは脆くはないけど、難波さん程、強くもない。


「そもそもそういう行為は、厄介なものを捨てる為にするものじゃないだろ。相手のことが愛しくて、もっと触れたいと思うから自ずとそうしたくなるのであって……」

自分で言ったことに照れたのか、難波さんは全て言い終える前に「飲み物頼むか」と言って店員さんを呼んだ。


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