甘い恋飯は残業後に


メニューを見る横顔を、ちらりと盗み見てみる。

――この人も、誰かを愛おしいと思ったりするのかな。

ふと、『Caro』スタッフの美杉さんの顔が頭に浮かんだ。



「黒糖焼酎、ロックで」

急に本気モードで飲みたくなったわたしは、部屋に来た店員さんに難波さんよりも先に注文する。

「おいおい、急にロックで大丈夫か?」

「大丈夫です。店員さん、ロックで構いませんから」

店員さんの目を見ながら強気の口調でそう言うと、二十代半ばかと思われる男の店員さんは「わかりました」とわたしに笑顔を向けた。

よく考えたらわたし泣き顔じゃないの、と慌てて顔を逸らしたが、時すでに遅し。店員さん達のいい話のネタになってしまいそうだ。


「……あー、失敗した。店員さんとうっかり目を合わせちゃった。きっと難波さんがわたしを泣かせたと思ってますよ、今の店員さん」

「別に、いいんじゃないか?」

余裕の顔でサラダをつついているのがまた、憎らしい。たった三歳差なのに、この人のこの余裕はどこから来るんだろう。


「難波さんのせいじゃないのに、二度も被害被ってますよね……すみません」

「そんなの、気にしなくていい」


――あれ。

こんな雰囲気になると、難波さんはいつもわたしの頭に手を乗せるのに。

彼を見れば「食い物も頼めばよかったな」とまたメニューを開いている。


何だろう、この胸のモヤモヤは。


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