甘い恋飯は残業後に
「なあ。桑原はゆうべ、気まずくなって別れたと言ってたよな?」
俯いたまま頷いてみせる。
自分のこめかみ辺りに視線を感じて、わたしは恐る恐る難波さんの方を向いた。
「何故、気まずくなった?」
濁して成立する部分を切り込まれると、さすがに躊躇する。
「それは……わたしが彼に対して申し訳なくて、どうしたらいいかわからなくなって……」
「だったら、桑原が気にしなくなるまで『気にするな』と男が言ってやればいいだけじゃないのか」
とことん正論なのは、体育会系だからなのか、それとも難波さんの性格なのか。
「多分、そいつは桑原に拒否されたことが相当ショックだったんだろうな。さしずめ“悲劇のヒロイン”ならぬ“ヒーロー”ってところか。桑原と別れた自分が可哀想なだけなんだよ。本当に彼女を大事に思っているなら、まずは彼女のことを一番に考える筈だ」
「でもわたしが気づけなかっただけで、彼はわたしを十分気遣ってくれていたと思うし……」
「当人が気まずさを解消できない気遣いって、そんなの気遣いと言えるのか?」
そう言われて、本当のところはどうだったんだろう、と自分の記憶に自信がなくなってきていた。
わたしが状況に耐え切れず別れる選択をした時、彼はわたしを引き止めたりはしなかった。それも彼なりの気遣いだと思っていたけど、本当に気遣ってくれていたなら、たしかにわたしは最初からそういう選択はしなかったんじゃないだろうか……?